名古屋高等裁判所 昭和47年(ラ)90号 決定 1973年1月17日
抗告人 吉田貞男(仮名)
被相続人 吉田くら(仮名)
主文
原審判を取消す。
被相続人吉田くらの清算後残存すべき相続財産の全部を抗告人に与える。
理由
抗告代理人の抗告の趣旨は主文のとおりであつてその理由は別紙のとおりである。
そこで審究するに被相続人の生活歴、被相続人の財産状況およびその管理状況、申立人と被相続人の関係については当裁判所も原審判の認定するところと同一の判断に到達したので原審判の理由記載を引用する。
被相続人の相続人については名古屋家庭裁判所豊橋支部昭和四一年(家)第三八八号相続財産管理人の選任、同昭和四二年(家)第二六七号相続人の申出の公告等の各手続を経て相続人の不存在が昭和四三年一月三一日確定したので同年四月二五日抗告人より被相続人の特別縁故者であるとして相続財産分与の申立があつたものである。原審判挙示の各証拠と○○寺代表役員の証明書、当審における抗告人審尋の結果を総合すると、抗告人は被相続人と血縁関係にある唯一のものであつて被相続人の従兄に当るが、被相続人の葬儀を野本源三と共に営んだ後、しばらくその位牌を○○寺に預けていたが、被相続人の七回忌の法要後抗告人が吉田家代代の先祖の祭祀を主宰することに親族間で決つてからはこれを自宅に引取り被相続人の母あさやあさの父浅吉らの位牌と共に自宅に安置し、祭祀を主宰していること、被相続人の生前これに対し経済的援助、農業手伝いなどはしなかつたが抗告人は戦後これといつた定職もなく子供四人を抱えて生活するのがやつとであつたことと遠方に居住していたためその意思がありながらこれをなしえなかつたものであることが認められる。以上の事実によれば抗告人は被相続人の特別縁故者に当るものと解するのが相当であるから被相続人の清算後残存すべき相続財産の全部を抗告人に与えることとする。
よつて右と見解を異にする原審判を取消すこととし、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 岡本元夫 裁判官 丸山武夫 土井俊文)